かつて「起業する」「独立する」といえば、もっぱら「会社を作る」ことを意味していました。
「協会を作る」など、発想すらされていませんでした。
今でもやはり、 起業=会社 という認識が一般的です。
しかし最近は「協会を作る」という選択肢も、起業を考える際に検討されることが増えています。
では「協会」と「会社」は、起業したい人にとって、どう違うのでしょうか。
協会を選ぶべきなのか、会社を選ぶべきなのか、どう判断すればよいのでしょうか。
このページでは、「協会」と「会社」の違いについて解説します。
両者を比べることで、「協会」の本質が理解しやすくなるからです。
違い①会社にとっては「顧客」、協会にとっては「会員」
「会社」にお金を払うのは「顧客」です。
「会社」は商品やサービスを提供し、「顧客」はそれに対価を払います。
「会社」と「顧客」の間には明確な線引きがあります。
「顧客」は決して「会社」の「内側の人」にはなりません。
いっぽう「協会」と「会員」の場合、両者の間には明確な線引きがありません。
「会員」は協会の養成講座を受講したとたんに、「協会の仲間」「内側の人」に意識が変わります。
つまり、「会員」は「仲間」でもあります。
「仲間」なので、「顧客」扱いをしてはいけません。
「仲間」という距離感が大切になります。
協会が大きくなるというのは、顧客が増えるということではなく、仲間が増えるということです。
協会のマーケティングというのは、顧客を増やすマーケティングではなく、仲間を増やすマーケティングです。
違い②第2テニス部は無い
「第2テニス部は無い」というのは、「ライバルが生まれにくい」ということを表しています。
たとえば、中学や高校に入学したときのことをイメージしてください。
部活でテニスをしたかったとしましょう。
もし、その学校にテニス部がなかったら、担任の先生に相談してテニス部を作ることになりますね。
でも、すでにテニス部があれば、「第2テニス部」は必要ありません。
すでにあるテニス部に入ればいいのですから。
わざわざ「第2テニス部」を作っても意味がありません。
「協会」にも同様の性質があります。
似たような協会を作ろうとしている人がいても、すでに「協会」が存在していることを知ったら、わざわざ競争相手になることは、ふつうしません。
すでにある協会に入ればいいのですから。
あるいは、すでにある協会と何らかの協力関係を結べばいいのですから。
新しく協会を作るより、すでにある協会に「入る」ほうが自然です。
「第2○○協会」は生まれにくいのです。
これが「会社」であれば、「あの会社は儲かっている。ウチも同じ事業をやろう」という発想になるのが一般的です。
つまり「競合」が生まれ、「競争」になりやすい。
しかし「協会」であれば、「1つの分野には1つの協会」という感覚があるので「第2○○協会」は生まれにくいのです。
違い③会社は「利益」を追求し、協会は「理念」を追求する
会社は「利益」を追求します。
なぜなら会社には株主がいて株主は利益の最大化を会社に期待するからです。
いっぽう、協会は「理念」を追求します。
「理念」を追求することが会員(受講生)や社会のためになるからです。
ここで誤解してはいけないことがあります。
まず、会社が「利益」を追求するのはちっとも悪いことではありません。
むしろ経済にとっては健全なこととされています。
次に、協会が「理念」を追求するからといって、それで経済的に苦しくなるわけではありません。
理念を追求すればするほど支持者や賛同者が増えるので、結果的には、経済面でも恵まれます。
ようするに「利益」なのか「理念」なのかを中途半端にせず、「利益」なら「利益」、「理念」なら「理念」をまっすぐに追求すれば、「利益」を追求する会社も「理念」を追求する協会も同じように経済的に報われるようになります。
違い④会社は「競争」し、協会は「共存」する
会社は利益を追求するためライバルと競争します。
「生き残りをかけた戦い」を日々、行っています。
だから、会社の社長は毎年の年頭のあいさつで「この厳しい経済環境を生き延びていこう!」ということをよく言います。
会社の社長にとってこの世は戦いの荒野なのです。
いわば、狩猟民族の世界。
いっぽう、協会は「理念」の支持者・賛同者を集めようとします。
敵を作るのではなく味方(仲間)を増やそうとします。
味方(仲間)みんなで豊かに栄えよう、というスタンスを取ります。
いわば、農耕民族の世界。
どちらが良い・悪いどちらが正しい・間違いではなく、単に「ありかた」の違いです。
なので、「戦うのが好き」という人は会社に向いています。
「共存が好き」という人は協会に向いています。
違い⑤ゴーイング・コンサーン
会社にはできるけど協会には難しい、協会にはそんな面もあります。
それは、「やってることを変えること」。
会社の場合、もしこれまでのビジネスがうまくいかなくなったら、やっていること(事業)を変えることがよくあります。
たとえば「ミクシィ」という会社は、かつてはSNS中心の会社でしたが、今では主にゲーム会社に変貌しています。
会社はそれで良いのです。
会社は利益を追求して生き残ることが目的。
環境の変化などで生き残りが難しくなれば、ビジネスを変えてでも生き残ろうとします。
環境の変化にあわせて進化する生物と良く似ています。
しかし協会は、「会員が存在するかぎり会員のためにやり続ける」という強い意志が必要です。
たとえばアロマセラピーの協会は、いつまでも、どんなに苦しくても、アロマセラピーの協会であり続ける必要があります。
途中からヨガの協会に変わるわけにはいきません。
会員はアロマセラピーを学びたくて協会に入ってきたのであり、ヨガを求めて入ってきたわけではないからです。
活動内容を途中で変えることは、法律的に禁止されているわけではありません。
しかし会員は、それを望みません。
つまり、協会には「最後までやり続ける」道義的な義務があるといえます。
これを「ゴーイング・コンサーン」と言います。
「ゴーイング・コンサーン」を守り抜くためには、ぶれない、しっかりした理念を持っていなければなりません。