協会は会社ではありません。構造や性質が大きく異なります。
協会は個人事業でもありません。運営感覚が大きく異なります。
「協会と会社の違い」、「協会と個人事業の違い」を意識せずに協会を扱ってしまうことが、協会が失敗する原因の大部分を占めています。
ここでは、会社でもない個人事業でもない、「協会ならではの」思考のありかたと、協会をやっていくうえで身につけるべきスキルについて解説します。
思考法
協会ならではの思考法には、2つのポイントがあります。
- 会員は顧客ではない
- 会員が主役
以下、順に説明します。
会員は顧客ではない
協会運営で大事なことの1つは「会員は顧客ではなく、仲間である」という点です。
ビジネス経験が豊富な人ほど、会員を顧客扱いしてしまう傾向があります。
しかし協会の会員を「顧客」と同じように考えていたら、その協会は盛り上がりが少ないはずです。
会員を「顧客」扱いする協会の思考がいろんな場面で表面化し、せっかくの協会の魅力を打ち消している可能性が高いからです。
協会を盛り上げたいなら顧客扱いすることをただちに止め、仲間、すなわち同じ船に乗っている船員(クルー)として扱うことが重要です。
会員が主役
協会の主役は会員です。理事長が主役なのではありません。
ただ、頭では理屈を分かっていても行動が伴わないというケースを「非常にしばしば」見かけます。
「会員が主役?そんなこと分かってます」と言いながら、じつは全然分かっていない。
個人事業の感覚の強い人に、そうした傾向がみられます。
たとえば、
- 講演の依頼があったらつい自分(理事長)が受けてしまう
- 執筆の依頼があったらつい自分(理事長)の仕事にしてしまう
- 取材の話があったらつい自分(理事長)が出てしまう
これらはすべて間違った対応です。
こうした行為の1つ1つが協会の発展を邪魔しています。
理事長みずからが成長の機会を潰しているのです。
正しくは、こうあるべきです。
- 講演の依頼があったら会員につなげる
- 執筆の依頼があったら会員に渡す
- 取材の話があったら会員に出てもらう
会員に機会を提供する、これが重要です。
逆説的ないいかたですが、能力の高い理事長は協会をダメにします。
なまじ能力が高いために自分でなんでもできてしまう。
自分でやるほうが早くできるしうまくできる。
だから人に振らないで自分でやってしまう。
理事長個人の知名度は上がるかもしれませんが、協会は不活発。
そんなふうになります。
協会は「人が集まってできるもの」なので、ひとりでなんでもできる優秀な理事長よりも、会員みんなの力がないとなにもできないちょっとダメな理事長のほうが集団が盛り上がります。
スキル
協会ならではのスキルには、3つのポイントがあります。
- 協会を説明するスキル
- 役割を提供するスキル
- 「痛い」を読み取るスキル
以下、順に説明します。
協会を説明するスキル
協会がうまくいくためには、応援してくれる人が大勢いるとよいですね。
応援してくれる人というのは
- 理事としてあなたを支えてくれる人
- 協会の講師になってくれる人
- 協会の顧問になってくれる人
- 協会をメディアに紹介してくれる人
- 協会と企業や自治体をつないでくれる人
などです。
こうした応援してくれる人に集まってもらうには、応援してくれそうな人に協会のことを説明し、「この協会はうまくいきそうだ(当たるかも)」と思ってもらうことが大切。
応援者が多い協会はうまくいくし、うまくいきそうな協会は応援者をひきつける。
ニワトリガ先かタマゴが先かみたいな話になりましたが、この「好循環」に協会を乗せたいものです。
したがって「協会のことを魅力的に説明する」スキルは、非常に大切です。
役割を提供するスキル
会社にとって顧客とは、会社の商品やサービスを消費する存在です。
顧客は多くの場合、受身です。
ところが協会にとって会員とは、協会と一緒に活動する存在です。
会員は受身ではありません。
したがって、協会は、会員に「役割」を提供することになります。
会員がそれを期待するからです。
「役割」には種類が2つあります。
- 会員共通の役割
- 個別の役割
この2つです。
前者(会員共通の役割)は、
「わたしたちは会員として何をしたらよいでしょう?」
という問いに答えるものです。
こちらは協会の活動目的と連動するものなので、協会設計時にだいたい決まっています。
したがって、あらかじめ用意された返答をすることになります。
ところが、後者(個別の役割)は、
「自分は会員として何をしたらよいでしょう?」
という問いに答えるものです。
こちらは会員1人1人の好みや個性、得意不得意などとも連動するので、会員によって答(役割)が異なります。
答(役割)はあらかじめ用意されているものではありません。
会員とのコミュニケーションを通じて、個別に答(役割)を提供することになります。
この、「会員とのコミュニケーションを通じて、個別に答(役割)を提供する」スキルが、理事長・理事に求められます。
「痛い」を読み取るスキル
日本語には「痛い」という言葉がありますね。
通常の「苦痛」を表す以外に
- 当人よりも、はたから見ているほうがみじめに感じる
- 見ていて恥ずかしい、哀れに感じる
そういった状況を「痛い」と形容することがあります。
わざと漢字を使わず「イタイ」「イタい」と表現する人もいます。
どういうときに、この「痛い」状況が起きるかというとたとえば(筆者のような)中年のおじさんが若者のコミュニティに予習もしないで無遠慮に入りこむといったケース。
これはリアルなコミュニティでもSNS上のコミュニティでも痛さは同程度でしょう。
(余談ですが、その反対に中年のおじさんのコミュニティに若者が入ってきてもたぶんそれほど痛さは感じられません。中年のおじさんにとってはじつに不公平な話ですが、しかたがありません。そんな中年のおじさんも若者であったころには当時の「痛い」中年のおじさんをコミュニティから排除してきたわけなので、因果はめぐると思って受け入れるしかないでしょう)。
どのような行動をわれわれ日本人は「痛い」と解釈するのか、どのような行動ならわれわれ日本人は「痛い」と思わないのか、この「痛い」を読みとるスキルは協会を作るうえで非常に重要です。
なぜなら、日本では「痛い人」が作った協会は絶対にうまくいかないからです。
まとめ
協会の理事長や理事がもつべき思考法には
- 会員は顧客ではない
- 会員が主役である
という2つのポイントがあります。
協会の理事長や理事がもつべきスキルには
- 協会を説明するスキル
- 役割を提供するスキル
- 「痛い」を読み取るスキル
という3つのポイントがあります。
いずれも、
- 協会は会社とは違う
- 協会は個人事業とは異なる
という重要な2つの概念に立脚したものです。