マーケティングの勉強をすると必ず出てくるのが
「プロダクト・アウト」
「マーケット・イン」
という言葉です。
今回は
「協会にはどちらの考え方がフィットするか」
がテーマです。
「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」
「プロダクト・アウト」とは、
まずは一生懸命に商品を作り、それから売ることを考える
というもの。
顧客のことはあまり考えていません。
「マーケット・イン」はその反対で
何が売れそうかをまずは見極め、ニーズに合った商品を提供する
というもの。
顧客のことを考え、顧客の求めに応じようというスタンスです。
では「協会にはどちらの考え方がフィットするか」ですが、その前に、私たちの国でマーケティングに対する考え方がどのように変化してきたかを、説明します。
マーケティング・コンセプトの変遷
歴史を振りかえると、戦後(第2次世界大戦後)の日本のマーケティングは、以下4つの時期に分けられます。
- プロダクト志向の時代
- セリング志向の時代
- 顧客志向の時代
- 社会志向の時代
①プロダクト志向の時代
戦後しばらくのあいだ、日本はモノ不足でした。
モノ不足だったため、商品を提供する側からすると「作ればすぐに売れた」時代です。
(ある意味、うらやましい時代だったのかもしれません)
これを「プロダクト志向の時代」といいます。
当時の人々が欲しがった商品は「冷蔵庫」「洗濯機」「テレビ」です。
「三種の神器」と呼ばれてたようです。
これらは作ればすぐに売れたわけですから、提供側としては「機能さえしっかりしていればよい」というスタンスでした。
- 冷蔵庫は、冷えればよかった。
- 洗濯機は、洗えればよかった。
- テレビは、映ればよかった。
そういう時代です。
この時代は、いかに早く大量に生産するかが重要でした。
②セリング志向の時代
日本はその後、高度成長の時期を迎えました。
モノが急速に普及しました。
普及した結果、「作ればすぐに売れた」「機能さえしっかりしていればよい」ではなくなった時代に突入します。
しかし商品を提供する側は、時代の変化にすぐには対応できませんでした。
モノが普及しているにもかかわらず、依然として
- 冷えるだけの冷蔵庫
- 洗えるだけの洗濯機
- 映るだけのテレビ
を生産しつづけました。
「三種の神器」にかぎらず、ほかの商品でも同様のことが起きています。
その結果、提供する側は、売れなくなった在庫を大量に抱えることになります。
そこで提供する側は、「セールス」「営業」を強化することによって、売れない商品をあの手この手で売ろうとしました。
これが「セリング志向の時代」です。
- 商品におまけをつける
- 抽選で3名をハワイ旅行に招待
みたいな売り方が始まったのもこの時期からのようです。
また、
- 怖い顔をしたオジサンが脅迫じみた態度でで商品を売る、「押し売り」
が横行したのもこの時期です。
いずれも、売れない商品をいかに売るか、というところに端を発しています。
③顧客志向の時代
しかし、おまけをつけをつけようと、ハワイに招待しようと、押し売りしようと、売れない商品はやはり売れませんでした。
欲しくないものを、無理に買わせることはできなかったのです。
ここではじめて、「売れるものを作る」「欲しいものを提供する」という考え方が台頭します。
つまり、「顧客志向の時代」が到来しました。
「冷蔵庫」「洗濯機」「テレビ」も、ただ機能するーー冷える、洗える、映るーーだけでは済まなくなりました。
なぜなら人々は、デザイン性に優れた冷蔵庫や、音を出さない洗濯機や、薄いテレビなどを欲しがるようになっていたからです。
提供する側は、「プロダクト志向の時代」のような「作れば売れる」という考え方を捨て、「何が求められているかを調べ、それを提供する」という考え方に切りかわりました。
④社会志向の時代
では「顧客志向」がマーケティングの最終段階として落ち着いたかというと、そうではありませんでした。
世の中はさらに変化します。
「顧客志向の時代」では、「求められている商品を提供すること」が重要でした。
しかし新しく到来した「社会志向の時代」になると、提供する側(企業など)の倫理観が問われるようになります。
たとえば、どんなに「求められている商品」を提供できていたとしても、その企業が
- 環境意識が低い
- ブラック企業である
- 偽装している
- 経営者がハラスメントをしている
といった状態であれば、消費者は離れてしまいます。
現代に生きる私たちは、この「社会志向の時代」の真っ只中にいます。
色にたとえると、「ホワイト」「グリーン」であることが求められます。
協会にはどちらの考え方がフィットするか
ではあらためて、「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」、どちらが協会にふさわしいでしょうか。
どちらが正しいでしょうか?
その答
ここまでの議論からすると、
顧客の求めに応じる「マーケット・イン」のほうが正しい
そう感じるのではないでしょうか。
ニーズに対応することが大切だとさんざん教わってきたからでもあります。
しかし、こと協会に関していえば、それはむしろ逆です。
「マーケット・イン」ではなく、「プロダクト・アウト」で協会を考えるほうがうまくいくのです。
その理由
起業する動機には
「ニーズがありそうだから起業する」
「やりたいことがあるから目指したいものがあるから起業する」
という2種類があります。
「ニーズがありそうだから起業する」
これは、先ほどの言葉でいうと、顧客の求めに応じる「マーケット・イン」に該当します。
いっぽう、
「やりたいことがあるから、目指したいものがあるから起業する」
は、顧客のことを考えない「プロダクト・アウト」の考え方です。
このことから、一見、
「ニーズがありそうだから起業する」
が正解のように見えるかもしれません。
でも本当にそうでしょうか。
もし、協会の理事長に
「あなたはなぜ、協会を作ったのか?」
と質問したとして、その理事長が
「ニーズがありそうだから協会を作った」
と答えたとしたらどう感じるでしょうか?
そんな協会の会員になりたいでしょうか?
「ニーズがありそうだから協会を作った」
この言葉には、熱意も思い入れもありません。
所詮はビジネスだと割り切っているようにしか聞こえないのです。
反対に、たとえば
「アートを熱く語れる人を増やし、アートがもっと理解される社会にしたい。だから協会を作った」
こんなふうに言われたほうがその協会に好感を持てます。
会員になってもいいと思う人も多いでしょう。
「やりたいことがあるから、目指したいものがあるから起業する」
という、プロダクト・アウトの考え方のほうが、感動や共感を呼ぶのです。
まとめ
「プロダクト・アウト」とは、
まずは一生懸命に商品を作り、それから売ることを考える
というもの。
「マーケット・イン」はその反対で
何が売れそうかをまずは見極め、ニーズに合った商品を提供する
というもの。
協会を立ち上げる動機は、極端にいえば
「人がなんと言おうと、自分にはやりたいことや目指したいものがあるから、協会を作るのだ!」
という「プロダクト・アウト」のほうが、結果的には魅力が生まれ、人を引きつけます。
事業としてもうまくいきますよ!