協会には「非営利」というイメージがあります。
日本では「営利」よりも「非営利」のほうが受けがよいため、「営利のイメージがある会社」よりも「非営利のイメージがある協会」のほうが好意的に見られています。
では、協会はなぜ「非営利」なのでしょうか?
「非営利」とは、厳密にはどういうことなのでしょうか?
ここでは、「協会」と「非営利」の関係について、解説します。
感覚的な「営利」「非営利」
このイラストのような感じの怖そうな人たちが集まり、ひそひそ相談しながら、健康食品のネット販売を始めたとします。
仕入れた健康食品は、彼らのアジトの地下室に保管されています。
その健康食品は、仕入れ値が100円です。
仕入れ値が100円の健康食品を、怖そうな人たちは2000円で販売しました。
つまり、原価の20倍で販売しています。
利益率は95%もあります。
さて、このグループのしていることは営利でしょうか、非営利でしょうか?
印象としては、営利に見えますね。
仕入れ値の20倍で売るなんて、なんだか暴利をむさぼっているようにも見えます。
しかし、このグループが、じつは
「その95%の利益のほとんどをアフリカの恵まれない子どもたちに寄付していた」
と知ったら、どうでしょうか。
いきなり、非営利に見えませんか?
怖い顔が、優しい顔に見えてきませんか?
このことから分かるように、人々が思う「営利」「非営利」は、
- あくどいことをしているような印象→営利
- 良いことをしているような印象→非営利
という図式になっています。
きわめて情緒的であり、曖昧です。
法律上の「営利」「非営利」
法律上はどうでしょうか?
法律での「営利」「非営利」の区別はどのように定義されているのでしょうか?
分配による区別
じつは、法律での「営利」「非営利」の区別は、
「儲けているか儲けていないか(利益の大きさ)」
とは関係がありません。
- 儲かっているから、営利
- 儲かっていないから、非営利
という図式ではないのです。
ましてや
- あくどいことをしているような印象→営利
- 良いことをしているような印象→非営利
という図式ではありません。
法律での「営利」「非営利」は、
「儲けたお金(利益)を、分配しているかどうか」
で判断されています。
すなわち
- 儲けたお金(利益)を分配している場合は、「営利」扱い
- 儲けたお金(利益)を分配していない(=貯金する、または別の目的に使う)場合は、「非営利」扱い
になります。
一般的な感覚では、
- 売上が多いと「営利」、少ないと「非営利」
- スタッフが報酬をもらっていると「営利」、無報酬だと「非営利」
のように考えがちですが、実際には「売上」も「報酬」も関係がありません。
「儲けたお金(利益)を、分配しているかどうか」だけが重要なのです。
利益の定義
では、「儲けたお金(利益)」とは、何でしょうか?
法律で「営利」「非営利」の区別を定義するのに「儲けたお金(利益)の分配先」が判断基準になる以上、「儲けたお金(利益)」の意味を曖昧なままにしておくわけにはいきません。
「儲けたお金(利益)」の定義も必要になります。
答をいいますと、「儲けたお金(利益)」とは、会計上の「税引後利益」のことになります。
売上からすべての必要経費を差し引き、人件費やオフィス家賃なども差し引き、最終的に残った利益に税金がかかります。
この税金を引いた後の利益が「税引後利益」ですが、これを分配している場合は「営利」、分配していない場合は「非営利」となるのです。
株式会社と協会
株式会社の場合
株式会社には必ず株主がいます。
株主のいない株式会社は存在しません。
株式会社の場合、「税引後利益」は株主のものです。
そのため、税引後利益は基本的には株主に分配されます。
これを「配当」と呼びます。
配当はつねに行われるとは限りません。
利益の出なかった年は、配当がないのが普通です。
利益が出た年でも、配当をせずに利益を株式会社の中に蓄積することもあります(内部留保といいます)。
しかし、たとえ配当がなく内部留保になったとしても、その内部留保は株主のものであることに変わりありません。
その意味で、配当であろうと内部留保であろうと、「税引後利益」は株主に分配されるのです。
したがって、株式会社は「営利」となります。
協会の場合
いっぽう、協会(※)には株主がいません。
株主がいないため、「税引後利益」を分配(配当)する相手がいないことになります。
「税引後利益」を分配(配当)する相手がいないため、「税引後利益」はすべて協会の中に蓄積されます。
この、中に蓄積された利益は、だれのものでもなく、協会のその後の活動のために使われることになっています。
いずれにせよ、「税引後利益」を分配(配当)する相手がいないという理由で、協会は「非営利」となります。
繰り返しますが、「営利」「非営利」は「税引後利益」を分配するかしないかで定義づけられています。
- どんなやりかたで売上をあげているか
- 売上が大きいか小さいか
などは、「営利」「非営利」の判定には無関係だということです。
まとめ
協会には「非営利」という好意的なイメージがあり、人々は「非営利」について
- あくどいことをしていると「営利」、良いことをしていると「非営利」
- 売上が多いと「営利」、少ないと「非営利」
- スタッフが報酬をもらっていると「営利」、無報酬だと「非営利」
といった情緒的なとらえ方をしています。
しかし法律上の「営利」「非営利」は、税引後利益を分配(配当)するかしないかの違いでしかありません。
協会はたしかに「非営利」ですが、税引後利益を分配(配当)しないからというのがその本当の理由であり、人々のイメージとは異なっています。
(※)法人の種類のなかに「協会」はありません。
言い換えると、協会は法律上の用語ではありません。
そのため、法人の種類の1つである「株式会社」と、法人の種類ではない「協会」とを、法律的に比較することはできません。
しかし、協会を「社団法人」「NPO」と読みかえれば、比較が可能になります。
「社団法人」「NPO」ともに法人の種類の1つであり、法律上の用語だからです。